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ユーザー定義型のコーディング

ユーザー定義型 (UDT) の定義をコーディングする際は、形式やシリアル化のオプションを選択するだけでなく、UDT をクラスと構造体のどちらで実装するかによって、さまざまな機能を実装する必要があります。

このセクションの例では、Point UDT を struct (Visual Basic では Structure) として実装する方法について説明します。 Point UDT は、プロパティ プロシージャとして実装される X 座標と Y 座標から構成されます。

UDT の定義に必要な名前空間を次に示します。

Imports System
Imports System.Data.SqlTypes
Imports Microsoft.SqlServer.Server
using System;
using System.Data.SqlTypes;
using Microsoft.SqlServer.Server;

Microsoft.SqlServer.Server 名前空間には、UDT のさまざまな属性に必要なオブジェクトが含まれています。また、System.Data.SqlTypes 名前空間には、アセンブリに使用できる SQL Server ネイティブ データ型を表すクラスが含まれています。 それ以外にもアセンブリが正しく機能するために必要な名前空間が存在する場合があります。 Point UDT は、文字列用の System.Text 名前空間も使用します。

注意

/clr:pure を指定してコンパイルした Visual C++ のデータベース オブジェクト (UDT など) は実行できません。

属性の指定

UDT のストレージ表現を構築し、クライアントに UDT を値として転送するためにシリアル化を使用する方法は、属性で決まります。

Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute は必須です。 Serializable 属性は省略できます。 また、Microsoft.SqlServer.Server.SqlFacetAttribute を指定して、UDT の戻り値の型に関する情報を提供することもできます。 詳細については、「CLR ルーチンのカスタム属性」を参照してください。

Point UDT の属性

Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute の Point UDT のストレージ形式は Native に設定します。 IsByteOrdered は true に設定します。これにより、SQL Server の比較結果がマネージ コードの比較結果と等しくなります。 さらに、この UDT に System.Data.SqlTypes.INullable インターフェイスを実装し、NULL に対応できるようにします。

次のコードに Point UDT の属性を示します。

<Serializable(), SqlUserDefinedTypeAttribute(Format.Native, _
  IsByteOrdered:=True)> _
  Public Structure Point
    Implements INullable
[Serializable]
[Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedType(Format.Native,
  IsByteOrdered=true)]
public struct Point : INullable
{

NULL 値の許容属性の実装

アセンブリの属性を正しく指定することに加えて、UDT で NULL 値の許容属性をサポートする必要があります。 SQL Server に読み込まれる UDT は NULL 値に対応していますが、UDT に NULL 値を認識させるには、UDT に System.Data.SqlTypes.INullable インターフェイスを実装する必要があります。

CLR コード内から値が NULL かどうかを判断するのに必要な IsNull というプロパティを作成する必要があります。 SQL Server では UDT が NULL インスタンスであることを検出すると、通常の NULL 値処理メソッドを使用して UDT を保存します。 そのため、サーバーが NULL の UDT の不要なシリアル化やシリアル化解除に時間を費やしたり、NULL の UDT を格納して領域を無駄にすることはありません。 この NULL に関するチェックは CLR から UDT が渡されるたびに実行されます。つまり、Transact-SQL の IS NULL コンストラクトを使用して NULL UDT のチェックを実行すると、必ず成功することを意味します。 また、IsNull プロパティは、インスタンスが NULL かどうかをテストするためにサーバーでも使用されます。 UDT が NULL であることを判断できれば、サーバーはネイティブの NULL 処理を使用できます。

IsNull の get() メソッドは決して特殊なケースではありません。 Point の @p 変数が Null の場合、@p.IsNull は既定で、"1" ではなく "NULL" と評価されます。 これは、IsNull get() メソッドの SqlMethod(OnNullCall) 属性が既定で False であるためです。 オブジェクトが Null であるため、プロパティを要求したときには、オブジェクトがシリアル化解除されることもメソッドが呼び出されることもなく、既定値の "NULL" が返されます。

次の例では、プライベート変数の is_Null に、UDT のインスタンスが NULL かどうかに関する状態が格納されます。 コードを作成する際は、is_Null の値を適切な状態に保つように注意する必要があります。 また、UDT の NULL 値のインスタンスを返す Null という静的プロパティを UDT に含める必要があります。 これにより、データベース内の UDT のインスタンスが実際に NULL の場合に、UDT から NULL 値を返すことができます。

Private is_Null As Boolean

Public ReadOnly Property IsNull() As Boolean _
   Implements INullable.IsNull
    Get
        Return (is_Null)
    End Get
End Property

Public Shared ReadOnly Property Null() As Point
    Get
        Dim pt As New Point
        pt.is_Null = True
        Return (pt)
    End Get
End Property
private bool is_Null;

public bool IsNull
{
    get
    {
        return (is_Null);
    }
}

public static Point Null
{
    get
    {
        Point pt = new Point();
        pt.is_Null = true;
        return pt;
    }
}

IS NULL と IsNull

Points(id int, location Point) というスキーマ (Point は CLR UDT) を含むテーブルと次のクエリを考えてみます。

--Query 1
SELECT ID
FROM Points
WHERE NOT (location IS NULL) -- Or, WHERE location IS NOT NULL;

--Query 2:
SELECT ID
FROM Points
WHERE location.IsNull = 0;

これらのクエリは、location が Null ではない Points の ID を返します。 クエリ 1 では、通常の Null 処理が使用されるため、UDT のシリアル化解除は必要ありません。 一方、クエリ 2 では、IsNull プロパティの値を取得するために、Null でないオブジェクトをすべてシリアル化解除し、CLR を呼び出す必要があります。 IS NULL を使用する方が明らかにパフォーマンスがよく、UDT の IsNull プロパティを Transact-SQL コードから読み取らなければならない理由はまったくありません。

では、何のために IsNull プロパティを使用するのでしょうか。 1 つ目の理由は、値が Null かどうかを CLR コード内から判断するために必要だということです。 2 つ目の理由は、インスタンスが Null かどうかをテストするための手段として、サーバーがこのプロパティを使用するためです。 インスタンスが Null であることを判断できれば、サーバーはネイティブの NULL 処理を使用してこのインスタンスを処理できます。

Parse メソッドの実装

Parse メソッドと ToString メソッドを使用すると、UDT を文字列形式に変換したり、文字列形式から別の形式に変換できます。 Parse メソッドでは、文字列を UDT に変換できます。 このメソッドは static (Visual Basic では Shared) メソッドとして宣言され、System.Data.SqlTypes.SqlString 型のパラメーターを受け取る必要があります。

次のコードでは、Point UDT の Parse メソッドを実装します。このメソッドでは、X 座標と Y 座標を分離します。 Parse メソッドには System.Data.SqlTypes.SqlString 型の引数が 1 つあり、X と Y の値はコンマ区切りの文字列として提供されることを想定します。 Microsoft.SqlServer.Server.SqlMethodAttribute.OnNullCall 属性を false に設定すると、Point の NULL インスタンスから Parse メソッドが呼び出されなくなります。

<SqlMethod(OnNullCall:=False)> _
Public Shared Function Parse(ByVal s As SqlString) As Point
    If s.IsNull Then
        Return Null
    End If

    ' Parse input string here to separate out points.
    Dim pt As New Point()
    Dim xy() As String = s.Value.Split(",".ToCharArray())
    pt.X = Int32.Parse(xy(0))
    pt.Y = Int32.Parse(xy(1))
    Return pt
End Function
[SqlMethod(OnNullCall = false)]
public static Point Parse(SqlString s)
{
    if (s.IsNull)
        return Null;

    // Parse input string to separate out points.
    Point pt = new Point();
    string[] xy = s.Value.Split(",".ToCharArray());
    pt.X = Int32.Parse(xy[0]);
    pt.Y = Int32.Parse(xy[1]);
    return pt;
}

ToString メソッドの実装

ToString メソッドでは、Point UDT が文字列値に変換されます。 この場合は、Point 型の NULL インスタンスには文字列 "NULL" が返されます。 ToString メソッドでは、System.Text.StringBuilder を使用して Parse メソッドと逆の操作を行い、X 座標と Y 座標の値から構成されるコンマ区切りの System.String を返します。 InvokeIfReceiverIsNull は既定で false に設定されるので、Point 型の NULL インスタンスかどうかをチェックする必要はありません。

Private _x As Int32
Private _y As Int32

Public Overrides Function ToString() As String
    If Me.IsNull Then
        Return "NULL"
    Else
        Dim builder As StringBuilder = New StringBuilder
        builder.Append(_x)
        builder.Append(",")
        builder.Append(_y)
        Return builder.ToString
    End If
End Function
private Int32 _x;
private Int32 _y;

public override string ToString()
{
    if (this.IsNull)
        return "NULL";
    else
    {
        StringBuilder builder = new StringBuilder();
        builder.Append(_x);
        builder.Append(",");
        builder.Append(_y);
        return builder.ToString();
    }
}

UDT プロパティの公開

Point UDT は、System.Int32 型のパブリックの読み書きプロパティとして実装される X 座標と Y 座標を公開します。

Public Property X() As Int32
    Get
        Return (Me._x)
    End Get

    Set(ByVal Value As Int32)
        _x = Value
    End Set
End Property

Public Property Y() As Int32
    Get
        Return (Me._y)
    End Get

    Set(ByVal Value As Int32)
        _y = Value
    End Set
End Property
public Int32 X
{
    get
    {
        return this._x;
    }
    set 
    {
        _x = value;
    }
}

public Int32 Y
{
    get
    {
        return this._y;
    }
    set
    {
        _y = value;
    }
}

UDT 値の検証

UDT データの使用時は、SQL Server データベース エンジンにより、バイナリ値が自動的に UDT 値に変換されます。 この変換処理では、値がその UDT のシリアル化形式に適しているかどうかがチェックされ、値を正しくシリアル化解除できるようにします。 これにより、値はバイナリ形式に再変換できるようになります。 また、バイト順の UDT の場合は、結果のバイナリ値が必ず元のバイナリ値と一致するようになります。これにより、無効な値がデータベース内に存在する危険性が回避されます。 それでも、このレベルのチェックでは不十分である場合もあります。 UDT 値を一定の範囲内に制限する必要があるときは、さらに検証が必要になります。 たとえば、日付を実装する UDT の日の値は、特定の有効範囲内の正の数である必要があります。

Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute の Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute.ValidationMethodName プロパティを使用すると、データを UDT に割り当てる場合および UDT に変換する場合にサーバーで実行される検証メソッドを指定できます。 また ValidationMethodName は、bcp ユーティリティ、BULK INSERT、DBCC CHECKDB、DBCC CHECKFILEGROUP、DBCC CHECKTABLE、分散クエリ、表形式のデータ ストリーム (TDS) リモート プロシージャ コール (RPC) などの操作の実行中にも呼び出されます。 ValidationMethodName の既定値は NULL です。これは、検証メソッドが指定されていないことを示します。

次のコードでは、ValidatePoint の ValidationMethodName を指定する Point クラスを宣言します。

<Serializable(), SqlUserDefinedTypeAttribute(Format.Native, _
  IsByteOrdered:=True, _
  ValidationMethodName:="ValidatePoint")> _
  Public Structure Point
[Serializable]
[Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedType(Format.Native,
  IsByteOrdered=true, 
  ValidationMethodName = "ValidatePoint")]
public struct Point : INullable
{

検証メソッドを指定する場合は、次のコードに示すようなシグネチャが必要です。

Private Function ValidationFunction() As Boolean
    If (validation logic here) Then
        Return True
    Else
        Return False
    End If
End Function
private bool ValidationFunction()
{
    if (validation logic here)
    {
        return true;
    }
    else
    {
        return false;
    }
}

検証メソッドには任意のスコープを設定でき、値が有効な場合は true を返し、それ以外の場合は false を返す必要があります。 このメソッドから false が返されるか例外がスローされると、その値は無効な値と見なされ、エラーが発生します。

次のコード例では、0 以上の値のみが X 座標および Y 座標として許可されます。

Private Function ValidatePoint() As Boolean
    If (_x >= 0) And (_y >= 0) Then
        Return True
    Else
        Return False
    End If
End Function
private bool ValidatePoint()
{
    if ((_x >= 0) && (_y >= 0))
    {
        return true;
    }
    else
    {
        return false;
    }
}

検証メソッドの制限事項

サーバーから検証メソッドが呼び出されるのは、サーバーで変換が実行されるときです。個別のプロパティを設定したり Transact-SQL INSERT ステートメントを使用してデータを挿入するときには呼び出されません。

あらゆる状況で検証メソッドを実行するには、プロパティの Set アクセス子や Parse メソッドから検証メソッドを明示的に呼び出す必要があります。 この呼び出しは必須ではなく、場合によっては不適切な呼び出しになることもあります。

Parse による検証の例

ValidatePoint メソッドが Point クラス内で確実に呼び出されるようにするには、Parse メソッドと、X 座標と Y 座標の値を設定するプロパティ プロシージャからこのメソッドを呼び出す必要があります。 次のコードでは、Parse 関数から ValidatePoint 検証メソッドを呼び出す方法を示します。

<SqlMethod(OnNullCall:=False)> _
Public Shared Function Parse(ByVal s As SqlString) As Point
    If s.IsNull Then
        Return Null
    End If

    ' Parse input string here to separate out points.
    Dim pt As New Point()
    Dim xy() As String = s.Value.Split(",".ToCharArray())
    pt.X = Int32.Parse(xy(0))
    pt.Y = Int32.Parse(xy(1))

    ' Call ValidatePoint to enforce validation
    ' for string conversions.
    If Not pt.ValidatePoint() Then
        Throw New ArgumentException("Invalid XY coordinate values.")
    End If
    Return pt
End Function
[SqlMethod(OnNullCall = false)]
public static Point Parse(SqlString s)
{
    if (s.IsNull)
        return Null;

    // Parse input string to separate out points.
    Point pt = new Point();
    string[] xy = s.Value.Split(",".ToCharArray());
    pt.X = Int32.Parse(xy[0]);
    pt.Y = Int32.Parse(xy[1]);

    // Call ValidatePoint to enforce validation
    // for string conversions.
    if (!pt.ValidatePoint()) 
        throw new ArgumentException("Invalid XY coordinate values.");
    return pt;
}

Property による検証の例

次のコードでは、X 座標と Y 座標を設定するプロパティ プロシージャから ValidatePoint 検証メソッドを呼び出す方法を示します。

Public Property X() As Int32
    Get
        Return (Me._x)
    End Get

    Set(ByVal Value As Int32)
        Dim temp As Int32 = _x
        _x = Value
        If Not ValidatePoint() Then
            _x = temp
            Throw New ArgumentException("Invalid X coordinate value.")
        End If
    End Set
End Property

Public Property Y() As Int32
    Get
        Return (Me._y)
    End Get

    Set(ByVal Value As Int32)
        Dim temp As Int32 = _y
        _y = Value
        If Not ValidatePoint() Then
            _y = temp
            Throw New ArgumentException("Invalid Y coordinate value.")
        End If
    End Set
End Property
    public Int32 X
{
    get
    {
        return this._x;
    }
    // Call ValidatePoint to ensure valid range of Point values.
    set 
    {
        Int32 temp = _x;
        _x = value;
        if (!ValidatePoint())
        {
            _x = temp;
            throw new ArgumentException("Invalid X coordinate value.");
        }
    }
}

public Int32 Y
{
    get
    {
        return this._y;
    }
    set
    {
        Int32 temp = _y;
        _y = value;
        if (!ValidatePoint())
        {
            _y = temp;
            throw new ArgumentException("Invalid Y coordinate value.");
        }
    }
}

UDT メソッドのコーディング

UDT メソッドをコーディングする際は、使用するアルゴリズムが時間の経過と共に変化する可能性があるかどうかを考慮します。 変化する可能性がある場合は、UDT で使用するメソッド用に独立したクラスを作成することを検討します。 アルゴリズムが変化したら、新しいコードになったクラスを再コンパイルし、UDT に影響を与えることなくそのアセンブリを SQL Server に読み込むことができます。 多くの場合、UDT は Transact-SQL ALTER ASSEMBLY ステートメントを使用して再読み込みできますが、既存のデータとの間に問題が発生する可能性があります。 たとえば、AdventureWorks サンプル データベースに含まれている Currency UDT では、別のクラスに実装されている ConvertCurrency 関数を使用して通貨値を変換します。 変換アルゴリズムが今後どう変化するかは予測できず、新しい機能が必要になる可能性もあります。 将来の変化に柔軟に対応するには、ConvertCurrency 関数を Currency UDT の実装から分離します。

Point クラスには、距離を計算するための DistanceDistanceFromDistanceFromXY という 3 つの簡単なメソッドが用意されています。 各メソッドから返されるのは、Point から 0 までの距離、指定した地点から Point までの距離、および指定した X 座標と Y 座標から Point までの距離を示す double 型の値です。 DistanceDistanceFrom はそれぞれ DistanceFromXY を呼び出します。ここでは、メソッドごとに異なる引数を使用する方法を例示します。

' Distance from 0 to Point.
<SqlMethod(OnNullCall:=False)> _
Public Function Distance() As Double
    Return DistanceFromXY(0, 0)
End Function

' Distance from Point to the specified point.
<SqlMethod(OnNullCall:=False)> _
Public Function DistanceFrom(ByVal pFrom As Point) As Double
    Return DistanceFromXY(pFrom.X, pFrom.Y)
End Function

' Distance from Point to the specified x and y values.
<SqlMethod(OnNullCall:=False)> _
Public Function DistanceFromXY(ByVal ix As Int32, ByVal iy As Int32) _
    As Double
    Return Math.Sqrt(Math.Pow(ix - _x, 2.0) + Math.Pow(iy - _y, 2.0))
End Function
// Distance from 0 to Point.
[SqlMethod(OnNullCall = false)]
public Double Distance()
{
    return DistanceFromXY(0, 0);
}

// Distance from Point to the specified point.
[SqlMethod(OnNullCall = false)]
public Double DistanceFrom(Point pFrom)
{
    return DistanceFromXY(pFrom.X, pFrom.Y);
}

// Distance from Point to the specified x and y values.
[SqlMethod(OnNullCall = false)]
public Double DistanceFromXY(Int32 iX, Int32 iY)
{
    return Math.Sqrt(Math.Pow(iX - _x, 2.0) + Math.Pow(iY - _y, 2.0));
}

SqlMethod 属性の使用

Microsoft.SqlServer.Server.SqlMethodAttribute クラスにはカスタム属性が用意されています。このカスタム属性を使用して、決定性を示したり、NULL で呼び出したときの動作を指定したり、メソッドがミューテーターかどうかを指定するためにメソッド定義にマークを付けることができます。 これらのプロパティは既定値に設定されるので、既定値以外の値を設定する場合のみカスタム属性を使用します。

注意

SqlMethodAttribute クラスは SqlFunctionAttribute クラスを継承するので、SqlMethodAttribute は FillRowMethodName フィールドと TableDefinition フィールドを SqlFunctionAttribute から継承します。 これは、一見テーブル値メソッドを記述できることを示していますが、この場合には該当しません。 テーブル値メソッドはコンパイルされ、そのアセンブリが配置されますが、実行時に戻り値の IEnumerable 型に関するエラーが発生し、次のメッセージが表示されます。"アセンブリ '<assembly>' のクラス '<class>' のメソッド、プロパティ、またはフィールド '<name>' の戻り値の型が無効です。"

次の表では、UDT メソッドで使用できる Microsoft.SqlServer.Server.SqlMethodAttribute の関連プロパティについて説明し、それらの既定値を示します。

  • DataAccess
    関数から SQL Server のローカル インスタンスに格納されているユーザー データにアクセスする必要があるかどうかを示します。 既定値は DataAccessKind.None です。

  • IsDeterministic
    入力値とデータベースの状態が同じであれば、関数から同じ値が出力されるかどうかを示します。 既定値は false です。

  • IsMutator
    メソッドにより UDT インスタンスの状態が変化するかどうかを示します。 既定値は false です。

  • IsPrecise
    浮動小数点演算など、厳密な結果が算出されない計算が関数に含まれているかどうかを示します。 既定値は false です。

  • OnNullCall
    入力引数に NULL 参照が指定されたときにメソッドが呼び出されるかどうかを示します。 既定値は true です。

Microsoft.SqlServer.Server.SqlMethodAttribute.IsMutator プロパティを使用すると、UDT インスタンスの状態の変化を許可するようにメソッドをマークできます。 Transact-SQL では、1 つの UPDATE ステートメントの SET 句に 2 つの UDT プロパティを設定できません。 ただし、2 つのメンバーを変更するミューテーターとしてメソッドをマークすることはできます。

注意

ミューテーター メソッドはクエリ内では使用できません。 代入ステートメントかデータ変更ステートメントでのみ、これらのメソッドを呼び出すことができます。 ミューテーターとしてマークされたメソッドが戻り値を返さない void (Visual Basic では Sub) の場合、CREATE TYPE はエラーで失敗します。

次のステートメントでは、Rotate メソッドを含む Triangles UDT が存在するものとします。 次の Transact-SQL 更新ステートメントでは、Rotate メソッドを呼び出します。

UPDATE Triangles SET t.RotateY(0.6) WHERE id=5

Rotate メソッドは、IsMutator が true に設定された SqlMethod 属性で修飾されています。これにより、SQL Server はこのメソッドをミューテーター メソッドとしてマークできます。 また、このコードでは OnNullCall を false に設定しています。これは、いずれかの入力パラメーターが NULL 参照の場合に、メソッドから NULL 参照 (Visual Basic では Nothing) が返されることをサーバーに示しています。

<SqlMethod(IsMutator:=True, OnNullCall:=False)> _
Public Sub Rotate(ByVal anglex as Double, _
  ByVal angley as Double, ByVal anglez As Double) 
   RotateX(anglex)
   RotateY(angley)
   RotateZ(anglez)
End Sub
[SqlMethod(IsMutator = true, OnNullCall = false)]
public void Rotate(double anglex, double angley, double anglez) 
{
   RotateX(anglex);
   RotateY(angley);
   RotateZ(anglez);
}

ユーザー定義形式による UDT の実装

ユーザー定義形式を使用して UDT を実装する際は、Read メソッドと Write メソッドを実装する必要があります。これらのメソッドは、UDT データのシリアル化とシリアル化解除を処理する Microsoft.SqlServer.Server.IBinarySerialize インターフェイスを実装します。 また、Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute の MaxByteSize プロパティも指定する必要があります。

Currency UDT

SQL Server 2005 以降、Currency UDT は、SQL Server と共にインストールできる CLR サンプルに同梱されています。

Currency UDT では、特定のカルチャの通貨システムでの金額の処理がサポートされます。 定義するフィールドは 2 つあります。string 型の CultureInfo フィールドでは、通貨の発行カルチャ (en-us など) を指定します。decimal 型の CurrencyValue フィールドでは金額を指定します。

Currency UDT がサーバーでの比較に使用されることはありませんが、この UDT には、1 つのメソッド System.IComparable.CompareTo を公開する System.IComparable インターフェイスが実装されます。 このインターフェイスは、クライアント側でカルチャ内の通貨値を正しく比較したり並べ替えたりする場合に使用されます。

CLR で実行されているコードでは、カルチャが通貨値とは別に比較されます。 Transact-SQL コードでは、次の操作により比較結果が決まります。

  1. IsByteOrdered 属性を true に設定します。これは、ディスク上に保存されたバイナリ表現を使用して比較を行うように SQL Server に指示します。

  2. Currency UDT に Write メソッドを使用して、この UDT をディスクに保存する形式と、その情報に基づいて Transact-SQL 演算で UDT 値を比較し順序付ける方法を決定します。

  3. 次のバイナリ形式を使用して Currency UDT を保存します。

    1. 0 バイト目から 19 バイト目までは UTF-16 エンコードされた文字列としてカルチャを保存します。右側の不足バイトには NULL 文字が埋め込まれます。

    2. 20 バイト目以降を使用して、通貨の 10 進値を保存します。

NULL 文字を埋め込む目的は、カルチャと通貨値を完全に分離することです。これにより、Transact-SQL コードで UDT が比較されるとき、カルチャ バイトどうし、通貨バイト値どうしが比較されるようになります。

Currency UDT の完全なコード リストを参照するには、「SQL Server データベース エンジン サンプル」に記載されている CLR サンプルのインストール手順に従ってください。

Currency の属性

Currency UDT には、次の属性が定義されます。

<Serializable(), Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedType( _
    Microsoft.SqlServer.Server.Format.UserDefined, _
    IsByteOrdered:=True, MaxByteSize:=32), _
    CLSCompliant(False)> _
Public Structure Currency
Implements INullable, IComparable, _
Microsoft.SqlServer.Server.IBinarySerialize
[Serializable]
[SqlUserDefinedType(Format.UserDefined, 
    IsByteOrdered = true, MaxByteSize = 32)]
    [CLSCompliant(false)]
    public struct Currency : INullable, IComparable, IBinarySerialize
    {

IBinarySerialize を備えた Read メソッドと Write メソッドの作成

UserDefined シリアル化形式を選択した場合は、IBinarySerialize インターフェイスを実装し、独自の Read メソッドと Write メソッドを実装する必要があります。 次の Currency UDT のプロシージャでは、System.IO.BinaryReader と System.IO.BinaryWriter を使用して UDT に対する読み取りと書き込みを行います。

' IBinarySerialize methods
' The binary layout is as follow:
'    Bytes 0 - 19: Culture name, padded to the right with null
'    characters, UTF-16 encoded
'    Bytes 20+: Decimal value of money
' If the culture name is empty, the currency is null.
Public Sub Write(ByVal w As System.IO.BinaryWriter) _
  Implements Microsoft.SqlServer.Server.IBinarySerialize.Write
    If Me.IsNull Then
        w.Write(nullMarker)
        w.Write(System.Convert.ToDecimal(0))
        Return
    End If

    If cultureName.Length > cultureNameMaxSize Then
        Throw New ApplicationException(String.Format(CultureInfo.CurrentUICulture, _
           "{0} is an invalid culture name for currency as it is too long.", cultureNameMaxSize))
    End If

    Dim paddedName As String = cultureName.PadRight(cultureNameMaxSize, CChar(vbNullChar))

    For i As Integer = 0 To cultureNameMaxSize - 1
        w.Write(paddedName(i))
    Next i

    ' Normalize decimal value to two places
    currencyVal = Decimal.Floor(currencyVal * 100) / 100
    w.Write(currencyVal)
End Sub

Public Sub Read(ByVal r As System.IO.BinaryReader) _
  Implements Microsoft.SqlServer.Server.IBinarySerialize.Read
    Dim name As Char() = r.ReadChars(cultureNameMaxSize)
    Dim stringEnd As Integer = Array.IndexOf(name, CChar(vbNullChar))

    If stringEnd = 0 Then
        cultureName = Nothing
        Return
    End If

    cultureName = New String(name, 0, stringEnd)
    currencyVal = r.ReadDecimal()
End Sub
// IBinarySerialize methods
// The binary layout is as follow:
//    Bytes 0 - 19:Culture name, padded to the right 
//    with null characters, UTF-16 encoded
//    Bytes 20+:Decimal value of money
// If the culture name is empty, the currency is null.
public void Write(System.IO.BinaryWriter w)
{
    if (this.IsNull)
    {
        w.Write(nullMarker);
        w.Write((decimal)0);
        return;
    }

    if (cultureName.Length > cultureNameMaxSize)
    {
        throw new ApplicationException(string.Format(
            CultureInfo.InvariantCulture, 
            "{0} is an invalid culture name for currency as it is too long.", 
            cultureNameMaxSize));
    }

    String paddedName = cultureName.PadRight(cultureNameMaxSize, '\0');
    for (int i = 0; i < cultureNameMaxSize; i++)
    {
        w.Write(paddedName[i]);
    }

    // Normalize decimal value to two places
    currencyValue = Decimal.Floor(currencyValue * 100) / 100;
    w.Write(currencyValue);
}
public void Read(System.IO.BinaryReader r)
{
    char[] name = r.ReadChars(cultureNameMaxSize);
    int stringEnd = Array.IndexOf(name, '\0');

    if (stringEnd == 0)
    {
        cultureName = null;
        return;
    }

    cultureName = new String(name, 0, stringEnd);
    currencyValue = r.ReadDecimal();
}

Currency UDT の完全なコード リストについては、「SQL Server データベース エンジン サンプル」を参照してください。

関連項目

その他の技術情報

ユーザー定義型の作成