ユーザー定義型の要件
Microsoft SQL Server にインストールする UDT (ユーザー定義型) を作成する際は、設計に関するいくつかの重要な決定を行う必要があります。ほとんどの場合は、UDT を構造体として作成することをお勧めしますが、クラスとして作成することもできます。UDT の定義は、SQL Server に登録する UDT を作成するための仕様に準拠している必要があります。
UDT の実装要件
UDT を SQL Server で実行するには、UDT の定義に次の要件を実装する必要があります。
UDT には、Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute を指定する必要があります。System.SerializableAttribute の使用は任意ですが、使用することをお勧めします。
UDT のクラスまたは構造体には、public static (Microsoft Visual Basic では Shared) Null メソッドを作成して System.Data.SqlTypes.INullable インターフェイスを実装する必要があります。SQL Server では、既定で NULL 値に対応します。この作業は、UDT で実行されるコードが NULL 値を認識するために必要です。
UDT には、オブジェクトの文字列表現からの変換をサポートする public static (または Shared) Parse メソッドと、オブジェクトを文字列表現に変換するための public ToString メソッドを含める必要があります。
ユーザー定義シリアル化形式を指定した UDT には、System.Data.IBinarySerialize インターフェイスを実装して Read メソッドと Write メソッドを提供する必要があります。
標準のシリアル化をオーバーライドする必要がある場合は、UDT に System.Xml.Serialization.IXmlSerializable を実装するか、すべてのパブリック フィールドとパブリック プロパティを、XML シリアル化可能な型または XmlIgnore で修飾された型にする必要があります。
UDT オブジェクトのシリアル化は 1 つだけ存在する必要があります。シリアル化ルーチンまたはシリアル化解除ルーチンでは、特定のオブジェクトの表現が複数認識されると検証が失敗します。
データをバイト順に比較するには、SqlUserDefinedTypeAttribute.IsByteOrdered が true である必要があります。IComparable インターフェイスが実装されていない場合に SqlUserDefinedTypeAttribute.IsByteOrdered が false であれば、バイト順比較は失敗します。
クラスで定義する UDT には、引数を受け取らないバプリック コンストラクターを含める必要があります。必要に応じて、オーバーロードのクラス コンストラクターを追加作成できます。
UDT では、データ要素をパブリック フィールドまたはプロパティ プロシージャとして公開する必要があります。
公開名は 128 文字以下にし、「識別子」に定義されている SQL Server の識別子の名前付け規則に準拠する必要があります。
sql_variant 列には UDT のインスタンスを含めることはできません。
SQL Server の型システムでは UDT 間の継承階層に対応していないので、継承されたメンバーに Transact-SQL からアクセスすることはできません。ただし、型のマネージ コード実装では、継承を使用してクラスを構造化したり、そのクラスのメソッドを呼び出すことができます。
クラス コンストラクター以外のメンバーはオーバーロードできません。オーバーロード メソッドを作成した場合、SQL Server にアセンブリを登録したり、型を作成するときにはエラーは発生しません。オーバーロード メソッドが検出されるのは、型の作成時ではなく実行時です。オーバーロード メソッドは、呼び出されない限りクラス内に存在することができます。エラーは、オーバーロード メソッドを呼び出した時点で発生します。
すべての static (または Shared) メンバーは定数または読み取り専用として宣言する必要があります。静的メンバーを変更可能にすることはできません。
SqlUserDefinedTypeAttribute.MaxByteSize フィールドが -1 に設定されている場合、シリアル化される UDT のサイズの上限は、ラージ オブジェクト (LOB) のサイズの上限 (現在 2 GB) と同じになります。MaxByteSized フィールドに値が指定されている場合は、その値が UDT のサイズの上限になります。
注 |
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UDT は比較を実行するためにサーバーで使用されることはありませんが、単一のメソッド CompareTo を公開する System.IComparable インターフェイスを必要に応じて実装できます。このインターフェイスは、クライアント側で UDT 値を正確に比較したり並べ替える場合に使用します。 |
ネイティブ シリアル化
UDT に適したシリアル化属性は、作成する UDT の種類によって異なります。Native シリアル化形式では、非常に単純な構造を使用して、SQL Server が効率的なネイティブ形式で UDT をディスクに保存できるようにします。作成する UDT が単純で、次の型のフィールドのみを含む場合は、Native 形式を使用することをお勧めします。
bool、byte、sbyte、short、ushort、int、uint、long、ulong、float、double、SqlByte、SqlInt16、SqlInt32、SqlInt64、SqlDateTime、SqlSingle、SqlDouble、SqlMoney、SqlBoolean
Visual C# の structs (Visual Basic では Structures) など、上記の型のフィールドから構成された値型は、Native 形式に適しています。たとえば、シリアル化形式に Native を指定した UDT には、Native 形式を指定した別の UDT のフィールドを含めることができます。作成する UDT の定義が複雑で、上記の一覧にないデータ型が含まれている場合は、UserDefined シリアル化形式を指定する必要があります。
Native 形式の要件を次に示します。
型に Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute.MaxByteSize の値を指定しないでください。
すべてのフィールドがシリアル化可能である必要があります。
UDT を構造体ではなくクラスで定義する場合は、System.Runtime.InteropServices.StructLayoutAttribute を StructLayout.LayoutKindSequential に指定しなければなりません。この属性は、データ フィールドの物理レイアウトを制御し、メンバーを出現順にレイアウトするために使用します。SQL Server では、この属性を使用して複数の値を持つ UDT のフィールド順序を決定します。
Native シリアル化で定義された UDT の例については、「ユーザー定義型のコーディング」の「Point UDT の属性」を参照してください。
ユーザー定義シリアル化
Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute に UserDefined 形式を指定すると、開発者はバイナリ形式のフル コントロールを得ることができます。Format 属性プロパティに UserDefined を指定するときは、コード内で次の設定を行う必要があります。
必要に応じて IsByteOrdered 属性プロパティを指定します。既定値は false です。
Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute の MaxByteSize プロパティを指定します。
System.Data.Sql.IBinarySerialize インターフェイスを実装することによって、UDT に Read メソッドと Write メソッドを実装するコードを記述します。
UserDefined シリアル化で定義された UDT の例については、「ユーザー定義型のコーディング」の「Currency UDT」を参照してください。
注 |
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SQL Server 2005 RTM バージョン以降では、保存されない計算列またはビューの一部としてインデックス化されたフィールドを、ユーザー定義シリアル化が指定された CLR UDT に含めることができるようになりました。こうした状況では、非決定的 UDT のシリアル化/シリアル化解除がインデックスを破損させる可能性があります。そのため、非決定的 UDT のシリアル化/シリアル化解除が SQL Server 2005 SP1 から削除されました。SQL Server 2005 SP1 で UDT フィールドをインデックス化するには、ネイティブ シリアル化を使用するか、UDT フィールドを保存する必要があります。UDT フィールド上の既存のインデックスは以前と同様に機能します。 |
シリアル化属性
属性は、シリアル化を使用して UDT のストレージ表現を構築し、クライアントに値渡しで UDT を転送する方法を決定します。UDT を作成する場合、Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute を指定する必要があります。Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute 属性では、そのクラスが UDT であることを示し、UDT のストレージを指定します。SQL Server では必要ありませんが、必要に応じて Serializable 属性を指定できます。
Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute には、次のプロパティがあります。
Format
シリアル化形式を指定します。UDT のデータ型に応じて Native または UserDefined を指定できます。IsByteOrdered
SQL Server で実行される UDT のバイナリの比較方法を決定する Boolean 値。IsFixedLength
この UDT のすべてのインスタンスの長さが同じであるかどうかを示します。MaxByteSize
インスタンスのバイト単位の最大サイズ。MaxByteSize は、UserDefined シリアル化形式では指定する必要があります。UDT にユーザー定義のシリアル化を指定した場合、MaxByteSize は、ユーザーが定義した形式でシリアル化された UDT の合計サイズを表します。MaxByteSize には、1 ~ 8000 の値を指定するか、UDT が 8000 バイトより大きいことを示す -1 (合計サイズが LOB の最大サイズを超えることはできません) に設定する必要があります。たとえば、10 文字 (System.Char) の文字列プロパティを持つ UDT について考えてみましょう。BinaryWriter を使用して UDT をシリアル化すると、シリアル化された文字列の合計サイズは 22 バイトになります。このサイズは、2 バイト (Unicode UTF-16 の文字 1 文字) に最大文字数を掛け、さらにバイナリ ストリームのシリアル化から生じるオーバーヘッドの制御バイト 2 バイトを加えたものです。したがって、MaxByteSize の値を確認する場合、シリアル化された UDT の合計サイズは、バイナリ形式にシリアル化されたデータのサイズに、シリアル化によるオーバーヘッドを加えた値と考える必要があります。ValidationMethodName
UDT のインスタンスの検証に使用するメソッドの名前。
IsByteOrdered の設定
Microsoft.SqlServer.Server.SqlUserDefinedTypeAttribute.IsByteOrdered プロパティを true に設定すると、シリアル化されるバイナリ データを使用して、情報の意味的な順序を保証できます。したがって、バイト順の UDT オブジェクトの各インスタンスは、シリアル化された表現を 1 つだけ持つことができます。SQL Server でシリアル化されたバイト列の比較操作を行うときは、その比較結果がマネージ コードで同じ比較操作を実行した場合と同じになる必要があります。IsByteOrdered を true に設定すると、次の機能もサポートされます。
この型の列にインデックスを作成する機能。
この型の列に CHECK 制約と UNIQUE 制約だけでなく主キーと外部キーを作成する機能。
Transact-SQL の ORDER BY 句、GROUP BY 句、および PARTITION BY 句を使用する機能。これらの句を使用した場合、順序の決定には型のバイナリ表現が使用されます。
Transact-SQL ステートメントで比較演算子を使用する機能。
この型の計算列を保存する機能。
IsByteOrdered を true に設定すると、Native と UserDefined のどちらのシリアル化形式でも次の比較演算子がサポートされることに注意してください。
等しい (=)
等しくない (!=)
より大きい (>)
より小さい (<)
以上 (>=)
以下 (<=)
NULL 値の許容属性の実装
アセンブリの属性を正しく指定することに加えて、クラスで NULL 値の許容属性をサポートする必要があります。SQL Server に読み込まれる UDT では NULL 値が許容されますが、その UDT に NULL 値を認識させるには、クラスに INullable インターフェイスを実装する必要があります。UDT に NULL 値の許容属性を実装する方法の詳細と例については、「ユーザー定義型のコーディング」を参照してください。
文字列の変換
UDT と文字列の間の変換をサポートするには、クラスに Parse メソッドと ToString メソッドを用意する必要があります。Parse メソッドでは、文字列を UDT に変換できます。このメソッドは static (Visual Basic では Shared) メソッドとして宣言され、System.Data.SqlTypes.SqlString 型のパラメーターを受け取る必要があります。Parse メソッドと ToString メソッドを実装する方法の詳細と例については、「ユーザー定義型のコーディング」を参照してください。
XML シリアル化
UDT では、XML シリアル化のコントラクトに従って xml データ型との間の変換をサポートする必要があります。System.Xml.Serialization 名前空間には、オブジェクトを XML 形式のドキュメントまたはストリームにシリアル化するためのクラスが含まれています。IXmlSerializable インターフェイスを使用すると、xml シリアル化を実装できます。このインターフェイスにより、XML シリアル化と XML シリアル化解除用のカスタム形式が提供されます。
UDT から xml 型への明示的な変換に加えて、XML シリアル化により次の操作を実行できます。
xml データ型への変換後に、UDT インスタンスの値に Xquery を使用できます。
SQL Server のネイティブ XML Web サービスにより、パラメーター化クエリと Web メソッドに UDT を使用できます。詳細については、「xml データ型と CLR ユーザー定義型の処理」を参照してください。
UDT を使用して、XML データの一括読み込みを受け取ることができます。
UDT 列を含むテーブルが格納されたデータセットをシリアル化できます。
UDT は、FOR XML クエリではシリアル化されません。UDT の XML シリアル化を表示する FOR XML クエリを実行するには、SELECT ステートメントで、各 UDT 列を明示的に xml データ型に変換します。また、これらの列を明示的に varbinary 型、varchar 型、または nvarchar 型に変換することもできます。