複数のアクティブな結果セット (MARS) の使用
SQL Server 2005 では、データベース エンジンにアクセスするアプリケーションで複数のアクティブな結果セット (MARS) のサポートが導入されました。 以前のバージョンの SQL Server では、データベース アプリケーションは 1 つの接続で複数のアクティブなステートメントを保持できませんでした。 SQL Server の既定の結果セットを使用しているときは、アプリケーションはその接続で他のバッチを実行する前に、1 つのバッチのすべての結果セットを処理するか、取り消す必要がありました。 SQL Server 2005 では、アプリケーションが接続ごとに複数の保留中の要求を持ち、特に接続ごとに複数のアクティブな既定の結果セットを持つことができるようにする新しい接続属性が導入されました。
MARS によって、次の新しい機能を使用したアプリケーションのデザインが簡素化されます。
アプリケーションは、既定の結果セットを複数開くことができ、複数の既定の結果セットからの読み取りをインターリーブすることができます。
アプリケーションは既定の結果セットを開いたまま、他のステートメント (INSERT、UPDATE、DELETE、ストアド プロシージャ呼び出しなど) を実行できます。
MARS を使用するアプリケーションについては、次のガイドラインを参照してください。
1 つの SQL ステートメント (SELECT、OUTPUT を伴う DML、RECEIVE、READ TEXT など) で生成される結果セットが短期間しか有効でない場合や結果セットが小さい場合は、既定の結果セットを使用します。
1 つの SQL ステートメントで生成される結果セットが長期間有効な場合や結果セットが大きくなる場合は、サーバー カーソルを使用します。
結果を返すかどうかにかかわらず手続き型の要求の場合、および複数の結果を返すバッチの場合、常に、結果の最後まで読み取ります。
接続プロパティの変更やトランザクションの管理には、できるだけ Transact-SQL ステートメントではなく API 呼び出しを優先して使用します。
MARS では、複数のバッチが同時に実行されている間、セッション スコープの権限の借用が禁止されます。
注意
既定では、MARS 機能は有効になっていません。 SQL Server Native Clientを使用してSQL Serverに接続するときに MARS を使用するには、接続文字列内で明示的に有効にする必要があります。 詳細については、このトピックで後述する「SQL SERVER NATIVE CLIENT OLE DB プロバイダー」および「SQL Server Native Client ODBC ドライバー」セクションを参照してください。
SQL Server Native Clientでは、接続上のアクティブなステートメントの数は制限されません。
複数のステートメントで構成される単一のバッチやストアド プロシージャを複数同時実行する必要のない一般的なアプリケーションでは、MARS の実装方法を理解しなくても、MARS の利点を得ることができます。 ただし、より複雑な要件のアプリケーションでは、MARS の実装方法を考慮する必要があります。
MARS では、1 つの接続内で複数の要求の実行をインターリーブできます。 つまり、1 つのバッチを実行し、その実行内で他の要求を実行できます。 ただし、MARS では並列実行が行われるのではなく、複数の実行がインターリーブされることに注意してください。
MARS のインフラストラクチャでは、複数のバッチがインターリーブ方式で実行されますが、実行の切り替えは明確に定義された時点でしか行われません。 また、ほとんどのステートメントはバッチ内で自動的に実行される必要があります。 クライアントに行を返すステートメント ( yield points と呼ばれることもあります) は、行がクライアントに送信されている間、完了前に実行をインターリーブできます。次に例を示します。
SELECT
FETCH
RECEIVE
ストアド プロシージャまたはバッチの一部として実行されるその他のステートメントはいずれも、他の MARS 要求に切り替えられる前に実行を完了する必要があります。
バッチがどのようにインターリーブ実行されるかは、さまざまな要因の影響を受けます。そのため、呼び出しポイントを含む複数のバッチからのコマンドが実行されるときに、正確なシーケンスを予測することは困難です。 このような複雑なバッチをインターリーブ実行したときに、好ましくない影響が発生しないように注意してください。
問題を回避するには、接続状態 (SET、USE) やトランザクション (BEGIN TRAN、COMMIT、ROLLBACK) の管理に、Transact-SQL ステートメントではなく API 呼び出しを使用し、これらのステートメントを、複数のステートメントをまとめたバッチ (呼び出しポイントも含む) に含めないようにしてください。また、すべての結果を使用するか、取り消すことによって、このようなバッチの実行をシリアル化してください。
注意
MARS が有効なときにトランザクションを手動または暗黙に開始するバッチやストアド プロシージャでは、バッチが終了する前にトランザクションを完了する必要があります。 トランザクションを完了しないと、SQL Server はバッチの終了時にトランザクションによって行われたすべての変更をロールバックします。 このようなトランザクションは、SQL Server によってバッチスコープのトランザクションとして管理されます。 これは、MARS が有効な場合に既存の適切に動作するストアド プロシージャを使用できるようにするために、SQL Server 2005 で導入された新しい種類のトランザクションです。 バッチスコープのトランザクションの詳細については、トランザクション ステートメント (Transact-SQL) に関する記事を参照してください。
ADO から MARS を使用する例については、「SQL Server Native Clientでの ADO の使用」を参照してください。
SQL Server Native Client OLE DB プロバイダー
SQL Server Native Client OLE DB プロバイダーは、SSPROP_INIT_MARSCONNECTION データ ソース初期化プロパティを追加して MARS をサポートします。これは、DBPROPSET_SQLSERVERDBINIT プロパティ セットに実装されます。 また、新しい接続文字列のキーワードとして MarsConn
が追加されました。 このキーワードは、true
または false
を値として受け取ります。既定値は false
です。
データ ソース プロパティ DBPROP_MULTIPLECONNECTIONS の既定値は VARIANT_TRUE です。 これは、複数の同時実行コマンドや行セット オブジェクトをサポートするために、プロバイダーが複数の接続を起動することを意味しています。 MARS が有効になっている場合、SQL Server Native Clientは 1 つの接続で複数のコマンド オブジェクトと行セット オブジェクトをサポートできるため、MULTIPLE_CONNECTIONSは既定でVARIANT_FALSEに設定されます。
DBPROPSET_SQLSERVERDBINIT プロパティ セットに行われた機能強化の詳細については、「初期化プロパティと承認プロパティ」を参照してください。
SQL Server Native Client OLE DB プロバイダーの例
この例では、SQL Server Native OLE DB プロバイダーを使用してデータ ソース オブジェクトを作成し、セッション オブジェクトを作成する前に、DBPROPSET_SQLSERVERDBINIT プロパティ セットを使用して MARS を有効にします。
#include <sqlncli.h>
IDBInitialize *pIDBInitialize = NULL;
IDBCreateSession *pIDBCreateSession = NULL;
IDBProperties *pIDBProperties = NULL;
// Create the data source object.
hr = CoCreateInstance(CLSID_SQLNCLI10, NULL,
CLSCTX_INPROC_SERVER,
IID_IDBInitialize,
(void**)&pIDBInitialize);
hr = pIDBInitialize->QueryInterface(IID_IDBProperties, (void**)&pIDBProperties);
// Set the MARS property.
DBPROP rgPropMARS;
// The following is necessary since MARS is off by default.
rgPropMARS.dwPropertyID = SSPROP_INIT_MARSCONNECTION;
rgPropMARS.dwOptions = DBPROPOPTIONS_REQUIRED;
rgPropMARS.dwStatus = DBPROPSTATUS_OK;
rgPropMARS.colid = DB_NULLID;
V_VT(&(rgPropMARS.vValue)) = VT_BOOL;
V_BOOL(&(rgPropMARS.vValue)) = VARIANT_TRUE;
// Create the structure containing the properties.
DBPROPSET PropSet;
PropSet.rgProperties = &rgPropMARS;
PropSet.cProperties = 1;
PropSet.guidPropertySet = DBPROPSET_SQLSERVERDBINIT;
// Get an IDBProperties pointer and set the initialization properties.
pIDBProperties->SetProperties(1, &PropSet);
pIDBProperties->Release();
// Initialize the data source object.
hr = pIDBInitialize->Initialize();
//Create a session object from a data source object.
IOpenRowset * pIOpenRowset = NULL;
hr = IDBInitialize->QueryInterface(IID_IDBCreateSession, (void**)&pIDBCreateSession));
hr = pIDBCreateSession->CreateSession(
NULL, // pUnkOuter
IID_IOpenRowset, // riid
&pIOpenRowset )); // ppSession
// Create a rowset with a firehose mode cursor.
IRowset *pIRowset = NULL;
DBPROP rgRowsetProperties[2];
// To get a firehose mode cursor request a
// forward only read only rowset.
rgRowsetProperties[0].dwPropertyID = DBPROP_IRowsetLocate;
rgRowsetProperties[0].dwOptions = DBPROPOPTIONS_REQUIRED;
rgRowsetProperties[0].dwStatus = DBPROPSTATUS_OK;
rgRowsetProperties[0].colid = DB_NULLID;
VariantInit(&(rgRowsetProperties[0].vValue));
rgRowsetProperties[0].vValue.vt = VARIANT_BOOL;
rgRowsetProperties[0].vValue.boolVal = VARIANT_FALSE;
rgRowsetProperties[1].dwPropertyID = DBPROP_IRowsetChange;
rgRowsetProperties[1].dwOptions = DBPROPOPTIONS_REQUIRED;
rgRowsetProperties[1].dwStatus = DBPROPSTATUS_OK;
rgRowsetProperties[1].colid = DB_NULLID;
VariantInit(&(rgRowsetProperties[1].vValue));
rgRowsetProperties[1].vValue.vt = VARIANT_BOOL;
rgRowsetProperties[1].vValue.boolVal = VARIANT_FALSE;
DBPROPSET rgRowsetPropSet[1];
rgRowsetPropSet[0].rgProperties = rgRowsetProperties
rgRowsetPropSet[0].cProperties = 2
rgRowsetPropSet[0].guidPropertySet = DBPROPSET_ROWSET;
hr = pIOpenRowset->OpenRowset (NULL,
&TableID,
NULL,
IID_IRowset,
1,
rgRowsetPropSet
(IUnknown**)&pIRowset);
SQL Server Native Client ODBC ドライバー
SQL Server Native Client ODBC ドライバーでは、SQLSetConnectAttr 関数と SQLGetConnectAttr 関数を追加して MARS をサポートしています。 SQL_COPT_SS_MARS_ENABLED が追加され、SQL_MARS_ENABLED_YES または SQL_MARS_ENABLED_NO を受け取ります。既定値は SQL_MARS_ENABLED_NO です。 また、新しい接続文字列のキーワードとして Mars_Connection
が追加されました。 このキーワードは、"yes" と "no" を値として受け取ります。既定値は "no" です。
SQL Server Native Client ODBC ドライバーの例
この例では、 SQLSetConnectAttr 関数を使用して MARS を有効にしてから 、SQLDriverConnect 関数を呼び出してデータベースを接続します。 接続が確立されると、2 つの SQLExecDirect 関数が呼び出され、同じ接続に 2 つの個別の結果セットが作成されます。
#include <sqlncli.h>
SQLSetConnectAttr(hdbc, SQL_COPT_SS_MARS_ENABLED, SQL_MARS_ENABLED_YES, SQL_IS_UINTEGER);
SQLDriverConnect(hdbc, hwnd,
"DRIVER=SQL Server Native Client 10.0;
SERVER=(local);trusted_connection=yes;", SQL_NTS, szOutConn,
MAX_CONN_OUT, &cbOutConn, SQL_DRIVER_COMPLETE);
SQLAllocHandle(SQL_HANDLE_STMT, hdbc, &hstmt1);
SQLAllocHandle(SQL_HANDLE_STMT, hdbc, &hstmt2);
// The 2nd execute would have failed with connection busy error if
// MARS were not enabled.
SQLExecDirect(hstmt1, L"SELECT * FROM Authors", SQL_NTS);
SQLExecDirect(hstmt2, L"SELECT * FROM Titles", SQL_NTS);
// Result set processing can interleave.
SQLFetch(hstmt1);
SQLFetch(hstmt2);