【イマジンカップ現場レポート】DAY5 :TOP6のプレゼンテーションの見所
DAY4の「Student Citizenship & Cultural Day」(ニューヨーク市内でのボランティア活動と観光を通じて、参加学生同士が交流をはかる日)をはさんで、DAY5は、ソフトウエアデザイン部門と組み込み開発部門のTOP6、ゲームデザイン3部門TOP3のプレゼンテーションが行われました。
午前9:00からスタートして、20:30過ぎの終了まで、1日がかりでしたが、さすがにRound1、Round2を勝ち抜いたチームのプレゼンテーションだけあって、各部門見応えのある発表が行われました。
イマジンカップ世界大会のTOP6、TOP3のプレゼンテーションの映像は、イマジンカップを目指す日本の学生の皆さんは、ぜひ一度、チェックしてみてください。イマジンカップで必要とされる技術力、プレゼンテーション能力を凝縮してみることができます。
以下、私がチェックした「組み込み開発」と「ソフトウエアデザイン」の感想を簡単に紹介します。
両部門に対する全体的な感想
1.社会問題に対する高い意識と絞り込まれた問題に対する徹底した調査
身の回りにある社会問題に対して、日頃からどれだけ高い問題意識が持てるかが重要です。大きな問題を解決するのではなく、問題を絞り込んで、その問題を徹底的に調査して、ピンポイントで解決のソリューションを考えていく必要があります。
2.「組み込み開発」と「ソフトウエアデザイン」の境界の融合?
「組み込み開発」は、技術要件として、eBox(ハードウエア)の利用が前提ですが、単なるデバイスを活用する次元を超えたソリューション提案が多く、クラウドやモバイル展開など「ソフトウエアデザイン」の領域と重なる部分が多く見えました。
「ソフトウエアデザイン」も、eBoxは活用せずとも、何らかのデバイスを絡めるソリューションが多く見られました。Kinect活用などを含めて、「ソフトウエアデザイン」でのデバイス活用は、今後も大きなトレンドの一つだと思いました。「組み込み開発」は、より明確に、なぜ「組み込み」なのかを強調したソリューションが求めらていくと思います。
3.マイクロソフト最新テクノロジーの活用は当たり前!
イマジンカップは、マイクロソフト主催のITコンテストですので、マイクロソフトの最新テクノロジーの活用は当たり前です。Windows AzureやWindows Phone7はもちろん、Kinectを活用するチームも、もちろんありました。最新テクノロジーへの感度の高さは、今後も絶対に求められていく要件の一つです。
4.プレゼンテーション能力の重要性!
ここ数年、日本の学生たちに、特に強調してきた「プレゼンテーション能力」の重要性が、ますます問われています。英語力も含めて、日本の学生が克服すべき課題は大きいのですが、世界の舞台での活躍を目指す学生は、今後も意識して「プレゼンテーション能力」を高めていく必要があります。英語圏以外の学生も数多くファイナルに進出しています。特に同じアジアの中国や台湾の同世代の学生たちが、どのように自分たちのメッセージを世界に発信しているかを、ぜひチェックしてほしいと思います。
組み込み開発部門、ソフトウエアデザイン部門それぞれのTOP6に対する感想。
組み込み開発部門:
・台湾「NTHUCS」
ホテルなど大きな建物で火災が発生した場合に、避難者は非常用サインに従って逃げますが、固定された非常用サインは、必ずしも的確な脱出経路を示しているとは限りません。そこで、火災発生場所をセンサーで自動的に探知して、その場所を避けた非常用サインをリアルタイムに示し、適切な避難誘導を行うというソリューションです。アイデア(発想)も素晴らしいのですが、それを伝えるプレゼンテーション、デモも、ともに素晴らしく、圧倒される内容の発表でした。
・英国「Cycling into trees」
このUKの学生さんは、昨年も一人で参加していましたが、今回もメンターの先生もなしで、一人で参加し、TOP6まで進んできました。SIDS : Sudden Infant Death Syndrome(乳幼児突然死症候群)に対する予防ソリューションです。遠隔から乳幼児の状況を様々なセンサーでモニタリングし、その状況を的確に伝達するという内容です。センサー部分が組み込みで、情報を受け取る部分は、PCやWindows Phone7であるので、今回多かった「組み込み」と「ソフトウエアデザイン」の融合ソリューションの一つです。市場調査、開発、プレゼンまで一人でどこまでできるのか?という可能性にチャレンジしているすごい学生さんです。
・ルーマニア「Endeavour_Design」
ロボット(自動車や車椅子などへの応用を考えている)の自動衝突回避制御のソリューションです。女性二人組が「組み込み」、かつ、ロボットに取り組んでいるといいうことで、マイクロソフトが推進している「Women in Technology」(IT業界での女性エンジニアや女性社員の地位向上)の事例となるような二人でした。衝突回避のアルゴリズムに特長があるのだと思いましたが、数式の部分の詳細な説明は、私にはわからず、どこまで凄いソリューションなのかは理解できませんでした。現実的な解決策よりも、難しい課題へのチャレンジが評価されたのかもしれません。今回の組み込み開発部門の日本代表にも女性2名が含まれていましたが、日本の理系女子学生のパワーも、世界に伝えたいと思いますので、ぜひ、イマジンカップにチャレンジしてきてください。
・フランス「Give Me 4」
単身の高齢者が孤独を感じないように、老人がテレビを使って簡単にメールやSNSが使えるように提案するソリューションです。プレゼンター自身が、自分の祖母(おばあちゃん)のことを考えて作ったと言っていたように、自分の身の回りにある問題を解決したいという発想が良いと思います。プレゼンテーションでは、メンバーの一人が祖母に扮装して、寸劇的にデモを見せるという趣向で会場をわかせました。メールや写真も、プレゼン時にその場で書いたり、撮影した写真を使うなど、臨場感があって、参考になるプレゼンテーション(デモ)だと思いました。
・ブラジル「Embedded Brain」
センサーを用いてリアルタイムに患者の状況を把握するヘルスケアのソリューションです。センサー部分が「組み込み」で、モニタリング部分は「ソフトウエアデザイン」という両部門融合ソリューションの一つです。ブラジルは、イマジンカップ上位入賞の常連国ですが、このチームの発表も堂々としていて、自信に満ち溢れたプレゼンテーションでした。モニタリング部分のUXデザインの完成度の高さ、実際のセンサーをメンバーに取り付けてリアルタイムでデモを見せる上手さなど、素晴らしい発表でした。
・中国 「Harmonicare」
ハーモニカを吹くことによって心肺機能を高めて、健康維持するという非常に斬新なアイデア(発想)のソリューションです。電子的な万歩計をつけて歩いたり、ジョギングしたりした情報をコンピュータで管理して健康を維持するソリューションが販売されていますが、それをハーモニカを吹くことにアレンジしたと思えばよいでしょう。ハーモニカを吹いた回数が記録されて、どのぐらい心肺機能が向上しているかわかるというものです。ハーモニカを吹くことが、どれだけ健康によいことかという学術的な裏付けも、もちろん調査して、発表に取り入れていますし、何より、ハーモニカを吹いて音楽が奏でられるプレゼンテーションというのは、見ていて楽しい発表でした。
ソフトウェアデザイン部門:
・アメリカ「Team Note-Taker」
視覚障碍者が学校でノートを取るためのソリューション。高解像度のカメラ(機器)とスレートPCの組み合わせで、ノートの部分は、Microsoft OfficeのOneNoteの拡張機能として実装しています。ソリューション(製品)として、完全に完成していて、実際の採用も決定しているという圧倒的な完成度の高さが素晴らしいです。
・ルーマニア「SIMPLEX」
医療のリハビリテーションの過程で、Kinectを活用して効果を高めていこうというソリューションです。今回のイマジンカップは、Kinect SDKの正式発表前の大会ですので、独自開発したドライバを用いての参加だったと思います。日本大会で、関西大学も似た発想のソリューションを発表してくれましたが、日本の学生の発想も世界に通用することを示す例だったと思います。Kinectだけでなく、Azure、Windows Phone7、各種.NETのAPIが盛りだくさんに採用されている点も評価が高い発表だったと思います。
・中国「Care Everyone」
身体障碍者のための新しいマウスアプリケーション管理システムを提案したソリューションです。このチームの圧巻は何と言ってもプレゼンターの表現力です。エジプト大会の組み込み開発部門で優勝した韓国チームの女性プレゼンターを彷彿とさせてくれました。アジアの女性が欧米人相手にプレゼンするときの見本のような感じで、会場からアイドル歌手並みの声援が送られていたのが印象的でした。ソフトウエアは必ずしも上手く動いていない場面もあったのですが、まったく動ぜず、与えられた役割を最後まで完璧にこなす、そのプレゼンテーション能力(表現力)の高さを見習いたいチームです。
・ニュージーランド「OneBuzz」
昨年、ラジオの電波を用いてファイル転送するという斬新なアイデアで3位になったチームから2名が残り、マラリア撲滅に焦点を絞ったソリューションで、今回も見事TOP6に残りました。ハザードマップは、今回の日本代表チームも作成していましたが、その完成度は、残念ながら圧倒的な差がありました。市場調査、ソフトウエアの開発、インドでの実証実験、今後のロードマップ、専門家のコメントなど、どれも「本気でマラリアを撲滅したい」というメッセージが伝わってくる内容でした。
・アイルランド「Team Hermes」
交通事故による死亡者を減らそうという目的で、自動車に車載の装置を取り付けて、クラウド(Azure)と連携して、過去の運転状況を分析してフィードバックを返すというソリューションです。トヨタのAzure活用のアイルランド学生版という感じです。センサー(組み込み)とクラウド、Windows Phone7(ソフトウエアデザイン)の融合ソリューションの一つです。メンバー全員がプレゼンを担当するチームワークの良さも、学生らしい発表で好印象でした。
・ヨルダン「OaSys」
身障者(手足の不自由な方)のコンピューター利用をWiiリモコンを使って実現するというソリューション。実際に、身障者の方が利用している様子や感想をビデオで流すなど効果的なプレゼンテーションが印象的でした。プレゼンターの自信に満ち溢れたプレゼンテーションに観客も審査員も引き込まれていくのがわかりました。
アカデミック エバンジェリスト
渡辺 弘之 twitter : @hwata007