これからの地方創生を考えるときに企業ができること
少し前に「消滅可能性都市」「2040 年には現在約 1700 ある地方自治体のうち 896 が人口減で消滅しかねない」といった議論があり、話題となりました。東京一極集中により地方の人口が減り、さらには東京では子育てがしにくいため東京に集まった若者は子供を産まなくなり、日本全体の人口がどんどん減っていってしまうというものです。地方の人口減少、しいては日本全体の人口減少を避けるためには、地方にいても雇用が確保できるような構造改革を日本全体で行っていく必要があります。
第一次産業、第二次産業では地方創生は成しえない
では、どうすればいいのかということですが、よくマスコミの論調であるのが、「若者に都会から帰ってきてもらって地域の農業、林業、漁業などについてもらおう」「地域の特性を生かした産業に若者を呼び込もう」というものですが、残念ながらそのような活動は大勢に影響することはないと思われます。第一次産業は 60 歳以上の就業者の割合が 5 割を超えるため、若い就業者の確保が将来の産業の維持をする上での最優先課題となっており、たしかにこの政策は重要です。
しかし、2010 年の国勢調査によると、日本における第一次産業への就業者の割合はわずか 5% 弱となっています。また、他の国や地域に目を向けてみると、第一次産業就業者は先進国においては 5% 未満であることが普通の状況となっています。経済学のモデルでも、国は発展してくると産業は第一次産業から第三次産業に移行することが示されており、就業者人口も第三次産業が大半になることは常識となっています。
引用: 平成22年国勢調査 (総務省統計局)
かつて日本が「世界の工場」として機能していたころは、地方に工場が誘致され第二次産業の就業者で地方の人口を支える、ということが行われていましたが、いまや賃金の安い中国や東南アジアをはじめとする国に「世界の工場」が移転してしまったため、このモデルで将来を描くのは難しくなっています。そうなると地方創生を真の意味で行うためには「就業者の大半を占める第三次産業でいかに地方の就業者を雇用するか」という命題を解決する必要がある、ということが分かります。
引用: データブック国際労働比較 2012 (独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
大都市圏と同様に地方からも第三次産業に就ける仕組みづくり
日本ではご存知のように東京などの一部の大都市に企業の本社が一極集中の状態になっています。また、「雇用のミスマッチ」により地方の中小企業で求人があっても応募してくる若者が少ない場合もあります。若者がつきたいと思う、安定していて給料の高い仕事が大都市に集中しているのが現状です。そのため、若者が就職するためには大都市に出てこないといけなくなるわけです。
第三次産業はサービス業を中心とした様々な業種から成り立っており、全就業者人口の 7 割を占めています。第三次産業に多くいる「ホワイトカラー」(専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者、販売従事者)は約 3,000 万人、雇用者の 5 割以上を占めます。ホワイトカラーの中には直接面談による接客対応などがない、内勤の雇用者がかなりの割合いると思われますが、この種の雇用者はかならずしも常時オフィス内で働いている必要はないはずです。
一般的な日本の働き方では、オフィスに朝から晩までいることが重要である、という風潮があります。仕事をしている、していないにかかわらず、上司から見て物理的に顔が見えていることが勤勉であることの象徴でした。働いている間はずっと島型対向のレイアウトで顔を合わせながらコミュニケーションをとる、というのが 90% 以上の日本企業で取られている方式です。
しかし、このような習慣を変えて、内勤の雇用者のうち職種、職責的に可能なメンバーには在宅勤務やリモートワークを許可することにより、地方からでも東京と同等の仕事を行えるようにできれば、地方創生にもつなげることができます。
欧米ではリモートワークが普通となっている
記事「在宅勤務に必要なルールとテクノロジー」でも触れましたように、欧米ではもともと東京のように首都一極集中の構造になっておらず、国や地方をまたいで働くことが進んでいました。国をまたいだ仕事を行うため、ホワイトカラーは英語でコミュニケーションが取れることは当たり前ですし、女性だけでなく男性も含め日本のように長時間オフィスに拘束され働く必要がない、柔軟な時間の使い方を許されています。これは、働き方を支える制度や仕組みの改善、そしてこの 10 年で大きく進化した ICT の力をうまく取り入れた効率的な働き方にシフトしていることが要因として考えられます。
米国では取引先企業が必ずしも自分と同じタイムゾーンに属しているとは限りません。米国は本土だけでも東部標準時 (EST)、中部標準時 (CST) 、山岳部標準時 (MST)、太平洋標準時 (PST) と 4 つ、加えてアラスカとハワイの 6 つの時間があります。シアトルで朝、会社に通勤して働き始めるころ、ニューヨークではお昼を迎えます。このような広大な国土のさまざまな都市に取引先企業が散らばっているため、ちょっとしたことは電話会議やオンライン会議で済ませてしまいます。場合によってはプロジェクトの最初から最後まで物理的に顔を合わせずに終わることもざらにあります。
また、自分の上司やチームメンバーが自分のオフィスの中にいるとは限りません。遠く離れた都市にある他の事業所にいることもよくあり、上司やチームメンバーと長く顔を合わせないことも多くあります。
ICT の力を借りてリモートワークの体制を築くことがいま企業にできること
いま、企業が地方創生のためにできることとしては、このようなリモートワークの仕組みを自社内でも推進していくことにより、多様なワークスタイルを推進すること、それにより地方からも雇用を行える体制を整えることにあるのではないかと思います。
日本政府では、今「世界最先端 IT 国家創造宣言」の中、「雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」)の実現」のために、テレワークの推進、ワークスタイルの変革などが提唱されています。2020 年にはテレワーク導入企業を 2012 年度比で 3 倍、週 1 日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者数の 10% 以上を目指す、という目標が設定されています。
ICT の力を借りれば、地方との距離を縮め、遠くにいてもいつも身近に感じ、綿密なコミュニケーションを行いながら共同作業を行っていくことが可能になります。日本マイクロソフトでも、上記の日本政府の方針に沿った形で、全社を挙げて「日本におけるテレワークの推進への貢献」を目指し、賛同法人の皆様とともに、この経験を実施後幅広く公開していくことで、日本のテレワークの推進に大きく貢献していきたいと考えています。
今月 27 日より、この取り組みを実証実験として行う予定です。詳しくは以下のバナーをクリックして詳細をご覧ください。また、日本マイクロソフトでは今後もこのような取り組みは継続的に行っていく予定です。この取り組みに賛同し、参加されたい法人がいらっしゃいましたら、日本マイクロソフトまでお問い合わせください。