Microsoft Azure Overview
Azureを歴史から理解する
クラウドコンピューティングは技術進化の激しいITのなかでも、特に変化が著しい分野です。Azureも例外ではありません。書いたそばから情報は古くなります。そこでAzureの概要を紹介するこのエントリでは、ひとひねりし、その歴史と進化過程を追うというコンセプトでお伝えしようと思います。サービス仕様やその実装を理解するとき、歴史や背景が役立つことがあります。陳腐化しない知識として、参考となれば幸いです。
第1期 理想を世に問うた黎明期 (2008~2012)
Azureは、2008年に開催された開発者会議、"PDC 2008"で発表されました。当時マイクロソフトのチーフソフトウェアアーキテクトは、ひとつの時代を築いたソフトウェア"Lotus Notes"の基礎を作った、レイ・オジー氏です。創業者であるビル・ゲイツから2006年にチーフアーキテクトのバトンを受け、準備期間を経て、いよいよというタイミングでAzureは発表されました。
当時はGoogle社のエリック・シュミット氏が「クラウドコンピューティング」という表現をはじめて使い、SaaSとしてSalesforce.comが、IaaSとしてAmazon Web Services EC2が台頭してきた時期です。「SaaSは楽でいいけど、もう少し自由にアプリを作りたい」「IaaSは自由度が高いけど、もっと楽がしたい」という「SaaSとIaaSのあいだ」という潜在需要が生まれた頃でもあります。
Azureはその需要を受け止め、アプリケーションにフォーカスしたPaaSとして誕生しました。生産性の高いVisual Studioで開発したアプリケーションを、インフラを意識せずにデプロイでき、管理はサービスにお任せ。それは、ビジョナリーであるレイ・オジー氏の、クラウドコンピューティングに対する答えでした。
インフラは隠蔽され、アプリケーション開発にフォーカスできる。そして、自由度も高い。そんな世界を目指していました。
Azureは青色、空色を表す言葉です。数多くの多様なクラウド、雲が空に浮かぶ姿をイメージしたと言われています。エンドユーザーのシステムはもちろん、ソフトウェアパートナーともAzure上で共栄する世界を作りたい、という思いも込められていました。
第2期 顧客、市場との対話を重視した変革期 (2012~2015)
理想を追い求め、ビジョン面でインパクトがあった第1期でしたが、市場を大きく動かすまでには至りませんでした。要因はいくつかあります。その中でも「クラウドにまだ慣れていないのに、いきなりインフラが見えなくなるのは不安」、「既存アプリの作りを変える必要性」、「オープンソースの台頭」という3つが、特筆すべきものでしょう。
平たく言えば「ビジョンの良し悪しはさておき、まだクラウドというものに慣れていないのに、Windows/マイクロソフトエコシステムに閉じたPaaSを使う踏ん切りがつかない」というところでしょうか。少し早すぎたのかもしれません。
そこで、理想はひとまず置いておいて、よりユーザーニーズに寄り添ったのが、第2期です。大きな変化は2つ、ユーザーがVMを直接コントロールできるようにしたこと、オープンソースソフトウェアへのリスペクト・共存です。
既存アプリ資産を移行しやすいよう、また、コントロールの範囲が広がるよう、これまで隠蔽されていたVMをユーザーへ開放しました。また、WindowsだけでなくLinux VMもサポートし、サードパーティーやオープンソースの開発、管理ツールとの連携も強化しました。そして、もっとも象徴的な出来事が、"Windows" Azureから、"Microsoft" Azureへの名称変更です。
いまやLinux VMの数はAzure全体の30%を超えています。GithubやJenkinsといった開発者に支持される”マイクロソフト生まれではない"ツールとの連携も、当たり前となりました。
前CEOであるスティーブ・バルマー氏が信じて投資を続けたこと。現CEO、サティア・ナデラの実行力。2人の経営トップが、この劇的な変化を支えました。
第3期 拡大期とその先へ (2016~)
ユーザーニーズを重視した第2期に、Azureの規模は拡大します。日本はもちろん、世界中へデータセンターを広げていきました。ですがそのいっぽうで、解決すべき課題も生まれます。
AzureはPaaSとして設計されました。その後ユーザーニーズに合わせ、インフラを部分的に開放します。もともと隠蔽するつもりで設計された範囲を公開するわけですから、そのアーキテクチャーにはちょっとした無理がありました。
そこで将来のさらなる拡張にむけ、基盤を徐々に新しいアーキテクチャーへ移行しています。この新アーキテクチャー、管理モデルがAzure Resource Managerモデルです。略してARMと呼ばれます。PaaSとIaaSのリソースを、一貫したモデルとAPIで制御、管理できます。
現在(2016/11)、このARMを活かした新ポータルと、旧モデル(ASM)をベースにしたクラシックポータルが混在しています。ご迷惑をおかけしているかもしれません。多くのサービスがARMと新ポータルへの移行を完了していますが、完全移行まで、もう少々お時間をいただければ幸いです。
さて、ARMへの移行により将来への準備を整えたAzureですが、今後はクラウドコンピューティングの可能性をさらに広げていこうとしています。機械学習やコグニティブサービスといった、これまでなかった新たなITの活用法は、その代表例です。
また、アプリケーションの近代化を支えるCompute Platformの拡充もすすめています。注目を集めているコンテナやサーバーレス/Function as a Serviceなど、生産性高く、変化に強いアプリケーションを動かすのに適した基盤を、マイクロソフトの強みであるVisual Studioなどの開発ツールとともに提案していきます。
すなわちPaaSの再挑戦です。第1期に思い描いていた世界を実現する機会が、1周まわって、少々カタチを変えて到来しました。第1期との違いは、クラウドコンピューティングが浸透しユーザーの理解が深まりつつあることと、マイクロソフトが自社技術「だけ」にこだわらなくなったことです。ユーザー、オープンソースコミュニティのフィードバックに耳を傾け、いいものはどんどん取り入れます。コミュニティでの開発にも参加します。
Azureの進化を支えているのは、みなさまの声です。ぜひ、忌憚ないご意見をいただければ、幸いです。