ブロックチェーンで発行した「0 円札」で見えない価値を可視化 ~人々の行動と連動した新たなリワード モデルの確立を目指す~
2015 年 2 月にイスラエルで創業し、現時点ではまだステルス モードで活動を進めているゼロビルバンク社 (ZEROBILLBANK LTD.) 。ここではブロックチェーンで企業コインを発行する基盤と、コインを人々の行動と結び付ける IoT のしくみを融合することで、新たな報酬モデルを作り上げることが目指されています。その基となったアイデアが、社会貢献を行った人々に「0 円札」を発行し、貨幣価値と切り離した形で貢献の価値を可視化するというもの。今回はこのゼロビルバンクの創業者/CEO である堀口 純一 氏と、COO を務める安藤 庄平 氏、イスラエルでの創業をオーガナイズした株式会社サムライインキュベート (以下、サムライインキュベート) の阿部 愛 氏に、ゼロビルバンクのビジネス コンセプトとこれまでの経緯、今後の目標などについてお話を伺いました。
写真右より、ZEROBILLBANK LTD. 創業者、CEO 堀口 純一 氏、ZEROBILLBANK LTD. COO 安藤 庄平 氏、
株式会社サムライインキュベート メディアグループリーダー&システムグループリーダー 阿部 愛 氏
人々の「行動」に基づきコインを発行するしくみを開発
より柔軟性の高いポイント プログラムの実現などが可能
―― まずは貴社のビジネス概要やコンセプトをお教えください。
堀口 親指 1 つで」できるコイン経済圏を、ブロックチェーンを活用して作り上げるための事業を展開しています。当社が現在提供しているものは、大きく 2 つあります。1 つはコイン発行やコイン付与条件設定を行うための「ZEROBILL コア」、もう 1 つは人々の行動情報の収集とコインのやり取りを管理する「Z-WALLET」です。これらはいずれもプライベート型のブロックチェーン上で機能します。この 2 つを連携させることで人々の「行動」を可視化し、それに基づいたコイン発行を行います。
―― 「行動」と「コイン」を結び付けることで、どのようなビジネス モデルが可能になるのですか。
堀口 1 つのモデルとしては、ロイヤリティ プログラムへの適用が考えられます。日本ではほとんどの企業がポイントを利用したロイヤリティ プログラムを運営しており、その市場規模は 1 兆円に達していると言われ、現在も年間 2 ~ 3% の成長を続けています。しかしポイントを付与できるのは、顧客が購買を行うなどのタイミングに限られており、柔軟な運営が難しいという問題があります。人々の行動を可視化しポイントとしてコインを付与できれば、この問題を解消できます。
―― 具体的にどのような運営が考えられるのですか。
堀口 たとえば、スマートフォンの位置情報と天候や時間の概念と組み合わせ、雨の日やアイドル タイムなどに来店した顧客にコインを発行するといったことが可能です。購買に至らない場合でも、わざわざ雨の日やアイドル タイムに来店したという行動に対して、感謝の気持ちを具体的な形で示すことができるわけです。ビーコンなどを活用すれば、ビーコンのある場所に行った人にコインを発行するといった、スタンプ ラリーのような使い方も考えられます。歩数センサーを使い、歩いた距離などに応じコインを発行するなど、健康増進を支援するサービスなども実現できます。
―― なかなか面白そうですね。なぜこのようなしくみを事業化しようと考えたのですか。
堀口 もともとのアイデアは、社会貢献を行っている人々を評価するしくみとして「0 円札 (ZEROBILL)」を発行するのはどうだろうか、というものでした。社会貢献という行動は間違いなく価値があるものですが、貨幣的な価値とは結びつかないケースが多く、価値を見えやすい形で示すことが困難です。しかしこれに対して 0 円札を発行すれば、貨幣的な価値と切り離した状態で可視化できます。大きな貢献を果たした人はより多くの 0 円札を手に入れることができ、0 円札の数でその貢献度を数値化できるからです。これをベースにした報酬モデルを確立できれば、ソーシャル インパクト (社会的貢献投資) につなげていくことも可能になります。しかしこのアイデアのままでは商業ベースに乗せることが難しく、投資家を説得することも困難だったため、2015 年 9 ~ 10 月ころに現在のビジネス モデルへとピボットしました。
―― なるほど。しかもブロックチェーンを使えば、そのインフラを低コストで実現できるわけですね。
堀口 そうです。同じようなしくみは既存のウォレット アプリやポイント カードでもできるかもしれませんが、従来型のシステムを IoT や Bot などの最新技術と連携させようとすると、大きな初期コストと運営コストが必要です。しかしブロックチェーンをベースにした当社の技術を活用すれば、大幅に時間的・費用的なコストを削減することが可能になります。
サムライインキュベートの企業プログラムに応募し
スタートアップ先進国イスラエルで起業
―― 起業したのは 2015 年 2 月、イスラエルで法人を設立していますね。これはなぜですか。
堀口 サムライインキュベートが行っているイスラエルでの起業プログラムをインターネットで偶然見つけ応募したのがそもそものきっかけです。これに合格し、あれよあれよという間に話が進み、イスラエルでの起業に至りました。
―― なぜイスラエルで起業プログラムを行うことになったのですか。
阿部 イスラエルは世界的に見ても、スタートアップのエコ システムが充実しているからです。2015 年の「世界スタートアップ・エコシステム・ランキング」では、上位 4 位までを米国の都市が占めていますが、5 位はテルアビブとなっており、米国の次に高い評価を受けています。マイクロソフトや Facebook など、イスラエルに開発拠点を置いている企業も多く、ブロックチェーンなどの最先端技術を駆使するスタートアップも数多く存在し、日本でまだあまり知られていない技術も存在します。サムライインキュベートでは、イスラエルでもスタートアップを支援しながら、日本企業をマッチングさせ、はじめからチームの状態でイスラエルの方から学ぶスタイルで支援をしたいと考えました。ここに日本からスタートアップとして応募したのが堀口さんです。
―― いきなりイスラエルで起業というのは、勇気がありますね。
阿部 そうですね。勇気だけではなく、先見性もすごいと思います。
堀口 私の以前の職場は IBM で、直前までシンガポールに赴任していたため、海外で起業することにはそれほど抵抗感はありませんでした。実際にイスラエルに住んでみると、日本やシンガポールよりもはるかに過ごしやすい、夏のリゾートといった感じです。また「大企業に入るのではなく起業するのがクール」といった文化があり、エンジェル投資家が多いのも魅力的です。
―― 活動拠点は現在もイスラエルなのですか。
堀口 2015 年 1 月 ~ 2016 年 2 月ころまではずっとイスラエルにいて、ビジネスのコアとなる部分を作っていましたが、現在は日本とイスラエルを行き来しながらビジネスを進めています。
―― 資金調達の状況は。
堀口 2015 年 6 月にサムライインキュベートから 10 万ドルの出資を受けました。その後は 2016 年 6 月までの間に、複数のエンジェル投資家から追加の投資をいただいております。
―― 最近では三菱東京UFJ銀行が 8 月に開催した「MUFG FinTech アクセラレータ第 1 期デモデイ」にも参加していますね。
堀口 2016 年 3 月、選考に合格し、4 月から約 4 か月間サービスのブラッシュアップを行い、最後のデモ デーに望みました。ここでお見せしたのは、丸の内エリア全体でキャンペーンを行うようなユースケースを想定したデモ環境でした。利用者の位置や時間、ビーコン センサー、ヘルスケア情報などを活用し、丸の内エリア内で特定の条件に合致する行動を行った方にコインを付与する、という活用例です。発行したコインは LINE と連携して期間限定クーポン券と交換できるようなライブデモをご紹介いたしました。コイン残高の高い人をランキングし、上位者を表彰してモチベーションを高めることも可能です。
阿部 堀口さんは前職が IBM ということもあり、大企業でイノベーションを起こすことの難しさも理解しています。ブロックチェーンでイノベーションを起こし、それを大企業に提案するというビジネスには、最適な方ではないかと思います。
2016 年 3 月から BizSpark Plus の活用も開始
スタートアップ フレンドリーな文化を評価
―― 2016 年 3 月からは Microsoft BizSpark Plus の活用も開始されています。
堀口 その 2 か月前にサムライインキュベートから BizSpark Plus を紹介していだたいていたのですが、MUFG FinTech アクセラレータに合格したことで開発環境を強化すべきだと考え、活用を決めました。このタイミングで当社に COO として参加し、マイクロソフトとのインターフェースも担当しているのが、ここにいる安藤です。彼は元サムライインキュベートの社員で、イスラエスでの起業プログラムの立ち上げにも関わっていました。
安藤 実はサムライインキュベートは、2011 年から「サムライベンチャーサミット」をマイクロソフトのオフィスで行うなど、マイクロソフトとは以前からさまざまな形で協業しており、マイクロソフトのパートナーでもあります。せっかくのご縁でもありますのでので、マイクロソフトを積極的に活用すればいいのではないかと考え、堀口に BizSpark Plus を勧めました。
―― 選択の理由は、以前から付き合いがあったからということですか。
安藤 それもありますが、根本的な理由は、マイクロソフトがスタートアップ支援に積極的だということです。マイクロソフトは 2008 年からスタートアップ支援に取り組んでいますが、大企業でこれだけ大々的にやっているのはマイクロソフトだけです。BizSpark Plus は Microsoft Azure を一定期間無償で利用できるうえ、スタートアップに詳しいテクニカル エバンジェリストも数多く、直接話をして支援を受けることができます。
堀口 マイクロソフトは企業とのネットワークもあり、お客様やパートナーを紹介してもらうこともできます。
安藤 少ないリソースでスタートアップする時には、このような人と人とをつないでくれるマイクロソフトのスタートアップ担当の存在は、とても重要だと実感しています。マイクロソフトは本当に、スタートアップ フレンドリーな企業だと思います。
―― Azure ではどのような機能を利用していますか。
安藤 現在は主に IaaS としての仮想サーバーと、モバイル バックエンドの環境を利用しています。また Azure のコンテナサービスである Docker Swarm のトライアルも開始しています。Azure はブロックチェーンを動かすのに適しており、コミュニティも充実しています。今後は開発したものをパッケージ化して Azure のマーケット プレイスで提供し、ボタン 1 つで展開できるようにしたいと考えています。
ブロックチェーン ✕ IoT ✕ Azure で新たな価値創造へ
―― いよいよステルス モードから脱し、本格的な展開が始まるわけですね。
堀口 ゼロビルバンクのしくみは、オリジナルのコインの上にさまざまな情報を載せ、新たな価値を生みだすというものです。どのような価値を乗せるのかは、ユーザーとなる企業や組織が自由に決められます。
最初に申し上げた消費者向けのポイントはもちろんのこと、ネット上でのアテンションの定量化や、従業員の活動を定量評価するといった使い方も可能です。またエンドユーザーがコインに自分の活動情報を載せてライフログとして蓄積し、その情報を自分の意志で企業に販売するといったことも行えるようになるでしょう。将来はこのような使い方ができるユニバーサルコインを実現し、情報の売買も可能にしていきたいと考えています。
―― 夢が広がりますね。
堀口 当社のビジネスの基盤は、ブロックチェーン ✕ IoT ✕ Azure の組み合わせです。アイデアさえあればさまざまなことが実現できるので、ぜひご相談いただければと思います。一緒に働いてくれる社員も募集中です。私達と一緒にビジネスをやりたい方、ブロックチェーンと IoT でとんがったものを開発したい方の応募をお待ちしています。
―― 今後の展開が楽しみです。本日はありがとうございました。 ZEROBILLBANK LTD.
ブロックチェーンで「0 円札」を発行することで、人々の社会貢献を可視化したリワードモデルを確立することを目指し、2015 年 2 月にイスラエルで創業。コイン発行などを行う「ZEROBILL コア」と、行動情報を収集する「Z-WALLET」を開発し、これらを組み合わせたユニークなインセンティブ スキームを実現しています。
株式会社サムライインキュベート
世界を席巻するサービスへ出資行う、シード特化のインキュベーターです。日本・そして世界が抱える社会的課題に対して、現行のアプローチに疑問があり、自らの手で未来を変えたいと強く想う起業家への出資・育成を行っています。